元禄花見踊り

二上り/前弾き)

吾妻路を 都の春に志賀山の 花見小袖の 縫箔も 華美をかまはぬ伊達染や
斧琴菊の判じ物 思ひ思ひの出立栄
連れて 着つれて行く袖も たんだ振れ振れ 六尺袖の しかも鹿の子の ふり袖模様
裾に八つ橋染めても見たが ヤンレほんぼにさうかいな そさま紫色も濃い
ヤンレそんれはさうぢやいな 手先き揃へてざざんざの 音は濱松よんやさ
花と月とは どれが都の眺めやら かつぎ眼深に北嵯峨御室 二條通の百足屋が
辛気こらした真紅の紐を 袖へ通して繋げや櫻 ひんだ鹿の子の小袖幕
目にも綾ある小袖の主の 顔を見たならなほよかろ ヤンレそんれはへ
花見するとて熊谷笠よ 飲むも熊谷 武蔵野でござれ
月に兎は和田酒盛の 黒い盃闇でも嬉し 腰に瓢箪 毛巾着 酔うて踊るが
よいよいよいよいよいやさ
武蔵野名物月のよい晩は をかだ鉢巻蝙蝠羽織 無反角鍔角内連れて
ととは手細に伏編笠で 踊れ踊れや 布つく杵も 小町踊の 伊達道具
よいよいよいよいよいよいよいやさ 面白や
入り来る入り来る櫻時 永冨東叡人の山 弥が上野の花盛
皆清水の新舞台 賑はしかりける次第なり

(文化譜本より)