あたま山

(前弾・二上り)
あたまが池のほとり 薄原分け行けば 尼寺ありて祈りの声す
のうまくさんまんだ うそだ 馬鹿だ のうまくさんまんだ うそだ 馬鹿だ 馬鹿だ
妙ちきりんのお祈りに そのわけ尼さんに聞いたらば すちゃらかぽくぽく阿呆陀羅経で
世にも哀れな女夫の話

その亭主がの 大変な大頭での   大頭 ああ 頭が大きい
さよう 大変な大頭での   亭主の頭にちょいと芽が生えた
頭にですよ  てええ 頭にね
生えたその芽の愛しさゆえに 芯をとめたら枝が出た
本当かい 頭の上にかい   そうなんですよ
幹は太るし枝葉も茂る
頭の上の木がね   へええ
すちゃらかぽくぽく よくよく見たら 八重か七重か桜の木
(合方)
頭の上で見せたいものは 爛漫たる桜の大樹 まるで傘でも差したように
さればさる御方の 頭の山に見えて よせばいいのに歌を詠まれた
歌はなんと詠まれた  おっほん  
富士筑波 花の木の間にほの見えて 遠近かすむ春の山風 遠近かすむ春の山風とな
ほほほほほ  ちえ なにをおだおだいってやんだい 人の頭の上でよ いい気なもんだ
本当だよお前さん  おや お山の下で なにかへんな人間の声がいたしやすね
あああ 俺の頭の上は花盛りか知らないが 自分では見られない高嶺の花よ
あああ いっそ昼寝だ昼寝だ
(合方)
さあ 団子草餅甘酒いかが 葭簀っぱりの掛茶屋で 緋の毛氈の縁台に 花の暖簾がひらひらひらと
赤前垂の姉さんが お休みなすってらっしゃいまし お掛けなすってらっしゃいまし
酒は燗酒煮込みのおでんで やっちょるね
ああああうるさい 頭の上がなんだかむずむずするよ おっかよ ちょっと俺の頭の上を見ておくれ
おや大変だよお前さん 頭の上が花見の茶屋でいっぱいだよ
うええ 痛い痛い痛い痛い痛い 頭が割れそうだよ
あらちょいと大変だよ お前さんの頭の上でさ 酔っ払いの立回りだよ
えええ 立回りだと うえええ 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
(本調子)
さてもあたま山の主 あまりの騒がしさにあきれ果て 近所の人に頼みて申すよう
私のな 頭の上のな 桜の木を ひとつ抜いちゃあくんさるめいかの
仲間の衆が寄り集まり 鉢巻襷の身軽さに
(合方)
木遣り音頭の面白や あたまの山には名題がござる 一に色事 二はにらみ合い 三に酒盛り 四に酔っ払い ううい   よおい よおい よいとな   どっこい
ああ痛い痛い痛い痛い痛い痛い あああ さっぱりしました 頭の木が抜けまして まずは皆さんありがとうございます あああ 百年ぶりで床屋へいったようだ
本当だよ そういや久しぶりで いい男っぷり おやお前さん 頭に 大きな穴が
ええ 頭に穴が
(三下り)
ぼうふら 源五郎水すまし あめんぼが すいすいすいすい水の上 頭が池に夏が来る
(合方)
石が流れて木の葉が沈む あよいよい ほんに浮世は金次第 さーあーさよいとんとーん
おいおっ母 頭の上で間抜けな歌唄ってる奴ら いったいどこのどいつだい
あれは大方そこらの俄か成金でしょうよ
一雨さっと水の上 いっそ涼しき船の内 ちょっとひたしてひとすすり
ところてんてん てんとんしゃん おつむてんてんとってんしゃん 芸者太鼓の屋形船
(合方)
あああうるさい もう我慢ならねえ   馬鹿遊びもいいかげんにしてもらいたいよ
なに 馬鹿遊びですって こちの旦那の旦那の悪口をいうとあっては そっちの方から立ち退いてもらわねばならぬて もともとこの池はな こちの旦那の持ち物じゃ 三五十五夜の晩までには きれいすっぱり 立ち退いてもらいやしょう
なんだ 立ち退け 自分の頭から 自分が出て行かれますかよ
あああ 本当に住みにくい世の中だね
おっ母よ 俺はもうつくづく浮世がいやんなった あああ いっそのこと
そうだねえ
二上り)
あわれ女夫は 頼るべき人もなく 萩桔梗尾花撫子藤袴 葛の花には女郎花
咲き乱れたる色草の あたまが池は松虫の露は涙か
覚悟はいいな   あいよ
颯々と秋風の 渡が中に あわれ女夫は 真っ逆様 あたまが池に落っこっちゃったとさ
あたまが池に落っこった ぶくぶくぶくぶくなんまいだ これで二人は浮かばれる
ぶくぶくぶくぶくなんまいだ いやいや私は浮かばれない ぶくぶくぶくぶくなんまいだ
なんでお前は浮かばれぬ ぶくぶくぶくぶくなんまいだ 自分の頭じゃ浮かばれぬ
ぶくぶくぶくぶくなんまいだ ぶくぶくぶくぶくなんまいだ
ぶくぶくぶくぶくなんまいだ ぶくぶくぶくぶくなんまいだ なんまいだ なんまいだ
なんまいなんまいなんまいだ なんまいだ


(第232回 長唄東音会演奏会 プログラムより)

とても面白いので、載せさせていただきました。

1957年(昭和32年
作詞:安藤鶴夫
作曲:山田抄太郎